前回紹介したレジェーラのミット。驚くほどのペースで手に馴染んできており、早くも実戦で使い始めることができています。そんなミットに使われている革がジュテル・レザー。レジェーラの原島さんが惚れ込んで同社のグラブに使っています。
一度もオイルを塗ることなく、乾拭きのみで何年も乾いたツヤを保つジュテル・レザー。そのとんでもない革が生まれる現場をみせていただく機会をいただきました。
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越谷にあるジュテル・レザーさんに初訪問
向かった先は埼玉県越谷。のどかな田園風景の先に見えてきたのが、この日の目的地ジュテル・レザーさん。
2階の事務所に案内いただき、この日のメンバーがくるのを待ちます。
ほどなくして、レジェーラの原島さんと参加者15人がそろいました。簡単に自己紹介となりましたが、東北や東海地方からこられた方もいて驚きました。皆さんのジュテル・レザーへの情熱がすごいことが開始早々わかりました。
圧巻のグラブコレクション
まずは、部屋中に飾られたグラブコレクションを見させていただきました。大変貴重なものが多いのにも関わらず、どれも実際に手にとってはめてもよいということで興奮しつつ鑑賞させていただきます。
ミズノの赤カップ。70-80年代を代表する人気グラブです。
初代ミズノプロD-up ZONEの外野手用。初めて若い牛の皮・キップを使ったグラブということで当時3万円超という値段でしたが売れに売れた商品。これを機に、キップが一番良い革という認識が広まったということです。
某I選手モデル。極限まで薄くしてステアを使うことで軽さを追求したモデルで、現役最後までジュテル・レザーがお気に入りだったとか。
神タンナー・沼田さんの情熱を直に感じるお話
今回の見学会はまずは冷房のきいたお部屋での座学からスタートとなりました。ジュテル・レザーの3代目である沼田会長が配布資料にそってお話してくださいました。
豪快に笑う会長のお話はいつまで聞いていても飽きない魅力があり、長丁場ながら寝るひとはゼロ!
以下の内容をくわしく、わかりやすくお話いただきました。はじめて知る内容ばかりで本当に勉強になります。
- ジュテル(寿照)が創業者・寿朗さんと二代目・照さんの名前に由来すること
- 動物たちにいただいた皮に感謝の気持ちで魂を吹き込む、という理念
- 沼田の革80年の歴史
- ジュテル革の特徴、ステアやキップそして和牛などの原皮がどう違うか
そして、何よりジュテルの歴史、グラブレザーの歴史が波乱万丈。伝記かドラマにでも仕上げたら大ヒット作にさえなるのではないか、と思わされます。
車に分乗して、いざ工場見学へ
説明会の建物から車で5分ほど移動して現場見学へと移ります。
そこには工場の心臓部ともいえる施設がありました。配布資料を手に「革のできるまで」の過程を説明してもらいます。
見学の前には、工場前で全員そろってのお参り。尊い命をいただいて皮を使わせてもらっているという感謝の気持ちを忘れてはいけませんよね。
第1工程:国内外の原皮の水洗い→石灰漬け→フレッシング
原皮についている不要物や毛・毛根を取りのぞく段階で、ここまでは他の工場で済ませているそうです。
実際に届いた原皮がこちら。そんな色だとは予想もしなかった真っ白の皮は、湿っていて弾力がありました。各種の酸などで処理された後なので、雑菌などもないきれいな状態になっています。
第2工程:なめし→加脂・染色
ジュテル・レザーでは重要な土台つづりと位置づけているなめし。生ものである原皮を処理して、腐らない革に変えてくれる工程です。
革の用途にあわせて、大きくわけて2つのなめし剤を使い分けているそうです。
こちらは植物性のタンニンを使ったなめし。ワインではよく聞く渋みの要素ですが、皮にとっては腐らなくさせてくれる魔法の薬になるわけですね。タンニンでなめされた革は伸びにくく、しっかりとした仕上がりに。
つづいては青みがかった粉を触らせてもらいました。こちらがクロム。金属でなめすことでタンニンなめしとは違った仕上がりになります。水色になったクロムなめし革は、もちっとしていて柔軟性に富んでいる印象。
それぞれ手法でなめした革をさわり、そして嗅いでみて違いを実感します。はたして、どちらがグラブ向きのなめし方なのかなどを考えたりしつつ、楽しく見学は進んでいきます。
某社でミットに仕上げられるであろう黒い和牛レザーもありました。この段階では水分量もありモチモチとした触感ですが、すでにいい革になる風格があります。
ここまでの見学を終えるとまた車で移動となります。事務室のあった建物の1階でこの先の作業は行われているためです。
第2.5工程:乾燥
なめしの終わった革は、吊るされた状態で自然乾燥されます。湿度のある環境なので時間はかかりそうですが、送風以外は自然にまかせ繊維にダメージを与えず水分をとっていきます。
もちろん強制乾燥する方法をとれば早く仕上がりに向かうのですが、繊維のつまりが出るなど熟練のタンナーさんでも難しい技術となるそうです。
第3工程:革もみ→塗装→押し・アイロン→計量
一頭の半身分の乾燥された革が平積みになっています。この革をつかって、正しい革の触り方を習います。背側からグラブをはめる手ではさみこむようにして、革ごとのコシ(戻る力)などを感じていきます。
適切な柔らかさになるまで、機械をつかって革をもんでいきます。1回機械を通すごとに手でさわって具合を確認していく様はまさに職人そのもの。
この工程では強く叩かれることで、革の中から油分がでてツヤがでてきます。
つづいて型押しを見学。機械で熱と力を加えることで芸術的な模様を刻みます。グラブにこれを使うことで見たこともないカッコいいデザイングラブに仕上がります。
塗装の仕上げには、ハンドスプレーもしくは機械をつかっての塗りが行われます。希望の色に合わせるための最終作業ですね。
仕上げにつかう大型のアイロンを見た後は、革の面積をはかる計量機を体験。できあがった革を通すことでその一枚が何㌥(1 ds = 10 cm x 10 cm)であるかが瞬時にわかるスグレモノでした。
ここまでの工程を経たものが梱包され、発送された先でグラブなどの製品がつくられていきます。タンナーさんが誠意をこめて行う、いくつもの作業があってこその良い革なんですね。
様々なグラブ用の革を触り比べ
工程を一通り学んだ後は、完成した革の触り比べをさせていただきました。
キップレザーの比較
並べて触り比べをさせていただけたもののひとつがキップ(生後6ヶ月〜2年まで中牛皮)。ひとことにキップといってもその原皮の特徴だけでなく、タンナーさんのさじ加減が入って仕上がりは様々。
赤い革がプロが好むキップ。そしてオレンジの革がミズノ波賀◯◯で採用されたキップ。手触りやコシがちがって参加者内でも好みが分かれました。
レジェーラグラブたちの集い
最後には参加者15名が持ち寄った愛用のレジェーラグラブたちで記念撮影を行いました。その数なんと27個!
その場で熱すぎるユーザー同士のグラブ談義がはじまりました。そのあまりの熱量に、さすがのパワフルな会長すらタジタジ。一方のレジェーラ原島さんはわが子であるグラブたちの成長した姿をみて満足されている様子でした。
やはり実際のレジェーラユーザー同士での情報交換は楽しすぎました。手にとって、この型は何番だなー、この配色はいいなー、とかいいながらワイワイしているとあっという間に時間が過ぎていきます。
あまりにも貴重な体験ができた1日
熱い話はまだまだ終わらず、舞台は懇親会へ。ぼくも是非参加したかったのですが次の予定があったため泣く泣く家路につきました。
レジェーラ仲間と体験した半日のジュテル・レザー工場見学会。予想をはるかに超える濃すぎる内容で感激しました。本当にすばらしい機会をいただけて感謝感謝です。
野球に関わる人であればぜひ一度は足を運んでほしいと思います。次回以降も企画されるようですので楽しみですね。